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ビジネスチャット時代のオフィスコミュニケーション

オフィスがシーンとしていませんか? 

先日、IT企業の経営者からオフィスのコミュニケーション問題の相談を受けた。社内が静かで、人の活気が感じられないというのだ。社員は皆、パソコンに向かい、チャットで淡々とやり取りをしている。しかし、便利さの裏で、組織の熱量は失われつつあるように見える。今回は、ビジネスチャットとオフィスコミュニケーションの関係について考えてみたい。

 

コミュニケーションツールの進化

現代のオフィスは、かつてないほど便利になった。情報はパソコン上に溢れ、資料はクラウドで共有され、チームメンバーと離れた場所からでも仕事を進めることができる。その象徴とも言えるのが、SlackやTeamsといったビジネスチャットだ。これらのツールは、チーム内のコミュニケーションを効率化し、情報の記録を自動で残すツールとして、多くの企業で導入されている。

 

便利さに潜む落とし穴

しかし、その便利さの陰には、思わぬ落とし穴も潜んでいる。SlackやTeamsは文字ベースのやり取りのため、情報は明確に残るが、議論の「熱量」は伝えにくい。また、チームの意思決定や重要な議論をすべてチャットで済ませようとすると、やり取りが冗長になり、理解や合意形成に時間がかかる。疑問点が出れば文章も長くなり、時間も取られる。文章で複雑な議論や重大事項の決定は、誤解も多く難しい一面もある。

 

効率的のようで、実は非効率の場合も多い

つまり、効率的に見えるやり方が、実は非効率になってしまうことがあるのだ。文字だけでは、相手の微妙な意図や感情も伝わりにくく、プロジェクトの方向性や方針に関する重要な判断をテキストだけで済ませるのは大きなリスクとなる。重要な議論、意思決定、アイデアの整理は、できれば対面で行うことが重要だ。対面での議論では、声のトーンや表情、間の取り方など非言語情報も加わるため、意思決定の精度と速度が格段に高まる。また、同時間内にやり取りできる情報量、会話量は、圧倒的に文章より口頭の方が何倍も多いことを忘れてはならない。

 

対面コミュニケーションの影響力

過去、コロナ禍でリモートワークが推奨された時期があった。リモートワークは働き方の多様化という意味では画期的で、一時的に大きな注目を浴びた。当時はこのままリモートワークが主流になるかのようにも思え、地方に家を買ってしまった社員もいたくらいだ。しかし、コロナが収まると、多くの企業は再び出社を促す方針に切り替えた。背景には、リモート環境下でコミュニケーションが希薄化し、生産性やチームの連帯感に影響が出ることへの懸念があったのだ。

 

社員の力を引き出し、育てるという視点でも、リモートワークだけでは限界があった。文章でのやり取りは効率的に見えるが、部下の考え方やニュアンスを深く理解するには、やはり対面のコミュニケーションが不可欠。チームの熱量や活気は、テキストコミュニケーションでは生まれないのだ。

 

人の集まるところに人は集まる

地方に行くと、人が歩いていない街を目にすることがある。駅前や商店街でさえ、人がほとんどいない。車社会がもたらした景色であろう。人が歩かず、街が静まり返っていると、当然、その街には活気が感じられない。そして、人の姿が見れない街は、時間をかけて衰退していく。人の集まるところに人は集まるからだ。便利さと引き換えに、街のエネルギーが失われることもある。

 

最近では人の歩く商店街に戻す取り組みをしている地方都市も増えている。駅前のシャッター店をおしゃれな店に変えていく。SNSで紹介し、街を歩く人を増やしていく。そうして再び人が集まる街に戻そうという取り組みだ。

 

オフィスも同じである。便利さを追求しすぎて、対面での会話や議論、意思決定が減ると、チームの熱量は低下する。対面での会話には脳を活性化させる効果も高く、そこから新しいアイデアが生まれることも少なくない。チャットは便利だが、依存しすぎると失うものも多い。重要なのは、ツールに頼りすぎず、人の熱量をオフィスに残すことだろう。

 

便利さと熱量の両立を目指して

では、オフィスコミュニケーションにおいて、便利さと熱量を両立させるにはどうすればよいだろうか。基本的な原則は明確だ。

 

1. チャットは記録と確認の手段として使う

日程調整や資料共有、簡単なタスク報告など、短時間で済むやり取りはチャットに任せる。情報は整理され、必要な時に誰でも確認できる状態になる。

 

2. 重要な議論や意思決定は対面で行う

プロジェクトの方向性や方針、アイデアの整理は、必ず会議室やミーティングで話し合う。声のトーンや表情を見ながら議論することで、合意形成がスムーズになり、誤解も減る。

 

3. 会議前のチャット活用で効率化

会議前に資料や前提情報をチャットで共有することで、会議は議論の場として集中できる。チャットは準備の段階で使い、意思決定は対面で行う。この役割分担が重要だ。

 

便利さに溺れず、熱量を守る。これこそが、ビジネスチャット時代のオフィスコミュニケーションにおける最も現実的なアプローチである。

 

社員の力を発揮させる視点を忘れない

現代のオフィスは、ツールの進化によって便利さを享受できるようになった。しかし、便利さだけに注目すると、意思決定や議論の質は低下し、チームの活力は失われる。SlackやTeamsはあくまで「手段」であり、最終的な判断や議論は人間同士で行うべきだ。

 

便利さと熱量のバランスを意識すること。それは、チームの生産性や創造性を維持し、社員一人ひとりの力を引き出すための不可欠な条件である。オフィスにおける人の存在は、ただの情報処理ではない。熱量を持った人が集まって初めて、活気ある組織が生まれるのである。

 

余談になるが、クイズの大会を見たことがあるだろうか。知識量で勝負が決まるだけではない。その場で思考がつながり、瞬時にアウトプットできるかの勝負である。そのために、強い高校生のチームは、「声を出すこと」を心掛けているという。「いいね」「素晴らしい」声を出すことによって、緊張から解放し、個々のパフォーマンスを高めるそうだ。また、声を出すことは気持ちをポジティブにする効果もある。オフィスがシーンとしていては、社員のパフォーマンスという側面からも、エネルギーが循環せず、本来発揮できる力が十分に引き出されないのである。

 

 

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